映画と僕。

暇さえあれば映画ばかり観ているノーフューチャーな中年男性による簡易レビューです。好みが偏っているので、できるだけ色々な作品のレビューを書こうと思っていますが、中々難しいかもしれません。

★★★★★★★★★☆ ナイト・オン・ザ・プラネット(1991/アメリカ)

<ナイト・オン・ザ・プラネット概要>

「ナイト・オン・ザ・プラネット」(原題"Night on Earth")は、ジム・ジャームッシュ監督によって制作され、1991年に公開された作品。内容はとてもシンプルで、各都市で務めるタクシー運転手たちの一夜を描いたアンソロジー映画です。

 

同作品は5つの異なる都市(ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキ)を舞台に、各都市のタクシー運転手が夜の街を走る様を描いています。各エピソードは独立した物語(ショートムービー)であり、それぞれの都市や登場人物の特徴や文化が反映されているのが大きな特徴と言えるでしょう。

 

さらに同作品は、ジャームッシュお得意と言える対話重視のスタイルで構成されており、登場人物たちはタクシー内での会話や街の風景を通じて、孤独・悲しみ・喜びなどの感情を共有します。さまざまな文化や人間関係の視点から都市の夜の世界を描き出し、観る者に深い感銘を与える作品です。

 

 

では本題。

 

いくら好きでも連続でジャームッシュ作品もどうかな? と思ったのだけど、やはり欠かせないので早速まとめてみました。

 

前回紹介した「コーヒー&シガレッツ」同様、同作品もオムニバスになっており、全5編のショートムービーで構成されています。ポイントは、この5編が個々に独立したテーマを持っている点です。それらテーマが具体的に語られることはありませんが、どの話も観る者に何かしらの気づきを与えてくれるものになっています。どんな話なのか? というと・・・

 

①ロサンゼルス

ビッチ・ドライバーと化したウィノナ・ライダーは、一見軽そうで適当な人間に見えるが、実は目標を達成するため、地道に努力をしているのが伺えます。そしてその「対」の存在として登場する芸能エージェントのおばさん(ヴィクトリア)は、自身の直感を信じ、それを他者にゴリ押ししてでも思い通りに着地させようと躍起になる言わば自己中ババアです。

 

貧乏でめちゃくちゃな生活を送るが目標に対して誠実な女と、ビバリーヒルズ在住の金持ちで、自己顕示欲の強い中年女性。相反するその様子は、話の冒頭でも表れています。空港の公衆電話で、タクシー会社のボス(上司?)に悪態をつくビッチ・ドライバーと、その背後で携帯片手に上から目線で同僚に報告するババア。その後二人は同じ目的(現地に辿り着く)を持って一台のタクシーに乗り込むのだけど、その不一致が人生の陰陽を表現しているように思えてなりません。

 

ウィノナ・ライダー反日と聞いてがっかりしたのですが、この作品における彼女のキャラクターには共感できる部分が多く、とても可愛らしいと思いますね。

 

②ニューヨーク

はい、この話が一番好きです。

字幕を読まずに英語での会話を聞いているだけで泣きそうになるくらい好きです。

多くは語りません。ヨーヨーとヘルメットによるブルックリンまでの珍道中。僕は何度も泣きましたよ。ヨーヨーの優しさと、まるで天使であるかのようなヘルメットの純粋さに。

 

③パリ

キレやすくプライドの高い移民の黒人ドライバーが主役。

途中で乗せる盲目の若い女性とのコントラストがとても印象的な一話。不自由であることを障害と思わず、堂々と自分の思うように生きるその女性の様子を見て、黒人ドライバーは自分の欠点や弱さ、本質を隠そうとする様が非常にリアルです。オチを作らないジャームッシュにしては、話のオチが結構インパクトありました。

 

④ローマ

ここで登場するのは「ジャームッシュ組」の筆頭俳優と言えるロバート・ベニーニ。言わずもがなですが、彼にこういうアホな男の芝居をさせたら右に出る者はいません。とにかく笑えます。冒頭からニヤニヤしっぱなしです。間抜けで運の悪いタクシー運転手の悲哀でまとめられたこの話は②以上にコメディ要素が強く、最終前の息抜きとして非常に意味のある一話になっています。

 

ヘルシンキ

これをラストに据えるあたり、さすがダウン・バイ・ローを作った男だなと妙に関心してしまったが、これは言わば人情噺です。童話になってもおかしくない(おかしいかも・・・)構成であり、笑えて泣けて腹も立つ、てんこ盛りのミクスチャーぶりが潔い一話。ネタバレ厳禁故、詳細は書きませんが、この話の最後とエンドロールの繋がりが、「シティーハンター×GET WILD」以上のマッチングを醸し出しているものだから、映画が終わってしまう寂しさを強く感じてしまいます。

 

くどいと分かりながら語ってしまったな。

とにかくジャームッシュ作品の優れたところは「観ていて全く疲れない点」に尽きるでしょう。

逆に言えば見せ場もなければオチもない、非常に平坦なストーリーということになるのだけど、僕のようにそういう世界観が死ぬほど好みという人も多いのではないか? と思います。

 

なので、人生に疲れ切った夜は、間違いなくこの作品を観ながら横になっています。

この前など、終日エンドレスでこの映画をリピートしていたのだけど、どれだけ病んでいるのかというね。この作品を観る頻度は、僕にとって不幸の程や疲労バロメーターになっています。

 

という訳で、僭越ながら「ナイト・オン・ザ・プラネット」のおすすめ度は・・・

 

★★★★★★★★★☆

 

9つということで。

DMM × pixiv推しホーダイ