<パターソン 概要>
ニュージャージー州の片田舎、パターソンで生活するバスの運転手、その名も「パターソン」。奇しくも住んでいる街の名前と同じ名前の主人公による、日常の風景を描いた作品。天真爛漫で美しい妻であるローラと、イングリッシュ・ブルドッグのマーヴィンの三人で慎ましく暮らしているが、その生活には大きな変化はなく、ひたすらに抑揚のない日常が繰り広げられていく。パターソンは市内を回るローカルバスの運転手として生計を立てる一方、詩人としての側面も持つ。日々の中で感じたことや、小さな疑問を詩にしたため、一冊のノートに綴っていく。名詩人、アレス・ギンズバーグの師として知られるパターソン出身の詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズを愛し、詩と対峙することでひたすら変わらぬ日常を過ごすパターソンだが、小さな事件が重なり、やがて心境にも変化が生じてくる。主演のアダム・ドライバーによる手書きの詩がそのままスクリーンに溢れ、パターソンの心情をリアルに表現する。「フォント・マニア」として知られるジャームッシュ監督のこだわりが随所に滲み出た渾身の平凡。退屈な日常を眺めることが、これほど面白いものなのか? と思わせてくれる、言わばジャームッシュ・マジックにかかってしまうことは間違いないだろう。
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日常とは大概退屈なもので、その中に散りばめられた小さな出来事で構成されているものだ。
朝起きて、食事を食べる。そして電車に乗って会社へ出向き、退屈な作業に没頭し、夕刻になると会社を後にする。酒を飲んで帰ることもあるだろうし、寄り道をせず自宅に帰り、家族と食卓を囲むこともあるだろう。そして日の終わりに妻を抱き、気がつくと夜が明ける。
ルーティンのバリエーションは様々だ。
犬の散歩、夕餉の買い物、妻への帰るコール、もしくは愛人や友人とのコミュニケーションなど。
在り来たりな日常に隠れた貴重な何かを感じることなく、誰もがつまらない、くだらないとため息を吐いて日々を過ごす。無論、この私もそうだ。
しかし、バイオリズムの振れ幅が小さい暮らしが、どれほど幸せなのか? この映画を見る度にその重要度を思い知ることになる。
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封切り後にジャームッシュの作品を劇場に観る機会は少なく、パターソンはその数少ない貴重な体験の一つだった。同じく映画好きの友人と観に行ったのだが、鑑賞後の得も知れぬ興奮・感動と言ったらそれは相当大きなものだったと記憶している。
パターソンが優れているのは、その描写にある。
静かな雰囲気と独特のリズム。日常の中に潜む小さな喜びや美しさを丁寧に映し出すその感性には脱帽するしかない。
主演のアダム・ドライバーが持つ朴訥な雰囲気も手伝って、日常感をよりリアルに描き出すことに成功しているあたり、映し方のみならず、役者の選び方も非常に長けていることがわかる。
正直、この映画に多くの感想は要らない。
とにかく没入して欲しい。それに尽きる。
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劇中のパターソンはバスドライバーでありながら、詩人としての側面もあり、日々感じたことを詩にまとめ、一つの作品としてパッケージし続ける。乗客の会話、バーでのやり取り、愛犬の粗相、可愛らしく美しい妻への溢れる愛、それらがパターソンのパーソナリティを作り、礎となっている。
個を作るマスターピースに特別なものはなく、それらはどれもスーパーに並べられた野菜の一つの如く、ありふれている。だが、それが最上級なのだ。
絵に描いたようなサクセスもなければ、ハーレクィーンよろしくなロマンスもない。
えてして日常など、人生などそんなものだ。
ジャームッシュの映画を異常なレベルで好きな理由はそこにある。
彼が描くストーリーは、どれも普通だからである。
確かに、ゾンビが街を占拠したり、死人が生き返って殺人鬼になるといった突飛なテーマの作品もあるが、それにしてもドラマ性はなく、淡々と話が進んでいく。その感覚がたまらなく好きなのだ。
パターソンはその完成系であり、ジャームッシュ・ムービーの王道とも言える構成にまとめ上げられているが、不思議と観る者を飽きさせない。
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『白紙のページに広がる可能性もある』
最後に永瀬正敏がパターソンに言い放つこの一言こそ、この映画の本質なのではないかと思っている。
詩はストーリーでもファンタジーでもない。
単なる一部分のリアルを切り取った塊でしかなく、フィクション性を持ちながらも、骨格はただの日常にある風景だったりする。
テーマを詩としたジャームッシュの真意は、「白紙のページ」にある。
それが人生を達観した先人の答え。
僕はそう思っている。
という訳で、そんな同作品の気になるおすすめ度は・・・
★★★★★★★★★★
満点ということで。
ローラが妻だったら最高だろうし、マーヴィンがどんな悪戯をしても、僕は許す自信がある。
とにかく、毎朝ローラに起こされたい。そう思った男子は多いのではないか? と推測するがどうだろう。
ありふれた日常に飽きたら、是非この作品を観て欲しい。